2月20日
2月20日(日)午前9:55
おばあちゃんが死んだ。
朝方2時半頃に、電話がなる。私は何となく嫌な予感がしていたので、普段はアラームの爆音でも目覚めないのだが、すぐに目覚めた。
前日は、いつものように仕事が終わって、病院に直行し、おばあちゃんの横で日記を書いた。おばあちゃんは意識が朦朧としていて、呼んでも反応がなかった。目も見えてなかった。
だけど、その日はなぜか、かちんと目が合った。もしかすると、おばあちゃんは、目が見えているのかもしれないと思わせるほどに、ぴったりと私たちの呼吸、意識が交わった気がした。
帰り際に、病室を出ようとしたのだけれど、なぜか、もう一度戻った。呼び止められているような気がしたから。
おばあちゃん。帰るけど、また明日くるからね。
そう言って、次に会った時にはもう危篤状態だった。
おばあちゃんは、死ぬ一時間前くらいから、意識が戻ったようであった。おしゃべりで、話をすることが大好きだったおばあちゃんは、しきりに口を動かして、何かを伝えようとしていた。
私と、母と妹と叔父と叔母で、ずっと、おばあちゃんに話しかけた。
私たちはここにいるよ。と。
その時は何を言いたいのかわからなかった。ただ、口だけが動いていた。
9時55分に、おばあちゃんはみんなに囲まれてゆっくりと、息を引き取った。
私は、おばあちゃんが死ぬはずがないと思っていたので、なかなか受け入れられず、周囲が呆れるくらいに泣いていた。嫌だ嫌だと泣いていた。
あとで、ふとわかったのだけれど、おばあちゃんは「きこえん。きこえん。」とずっと言っていたんだと思う。
口がそのように動いていたから。
人一倍寂しがり屋で、孤独であることに敏感であったおばあちゃん。私たちがいる事はわかっていたんだけれど、私たちの声が聞こえなかったんだろう。
おばあちゃんが死んだ後に、おばあちゃんの日記を読んだ。2007年に私は、おばあちゃんと二人暮らしをしていた。
私の事をものすごく心配していて、私が誰と、何をしに出かけただの、私が夜中お腹が痛いと言って何分トイレにこもっていただの、何時に帰宅しただの、事細かに書かれていた。
私がおばあちゃんちを出て、今の場所に移った時。寂しくて、涙が出たと記してあった。
もう次はないかもしれないから、もう一度顔を見せてくれ、と言ったおばあちゃん。話が長いおばあちゃん。庭に咲いた花を見に来てくれと電話してきたおばあちゃん。あそこに行きたいから、いつか一緒に連れていってくれと言ったおばあちゃん。
うん。続きはまた今度ね、と言った私。
おばあちゃんはいつまでも生きているんだと思っていた、私。
あと一ヶ月で91歳でした。長生きしました。自分の体のこと以上に人のことも心配しました。おじいちゃんは40年前に亡くなりました。84歳まで、保険会社で働きました。
今日おばあちゃんは、いつもよそ行きの時に着る服と、靴、帽子、眼鏡、そして、たくさんの土産話を抱えて、おじいちゃんの元へと出かけました。
口をぎゅっとむすんで、「それでは、行ってきます。」と言って。
私にはそれが見えました。
今頃、40年分の話しをおじいちゃんに話しているんでしょう。私は会ったことがないおじいちゃんは、気長にそれに付き合っているんだろう。
お疲れ様。おばあちゃん。
前に書いた、おばあちゃんと過ごした時間の日記を載せて終りにします。
2010年9月13日
日が落ちてしまう前の薄暗い空で、三日月は、精一杯に発光しているようであったけど、それは、きっと何かが照らしてくれているから。
いろーんな事があった。それを毎日思い出している。
でも、日に日に、記憶が、一つ、また一つと消えていくよ。
彼女は、ゆっくりとそう言った。
ここは、私の家かね?
そう聞かれたので、
そう。ここは、ずーっと昔からおばあちゃんの家よ。
と答えた。
外は薄暗く、月が光っていた。
私は、彼女と手をつないで、月を見た。
おばあちゃん。月が出ているよ。見える?
彼女は、もうほとんど目が見えないみたいだけれど、
うん。月は見える。あんたも見える。だからまだ大丈夫。
と答えた。
おばあちゃんは、今日。私の母のお婿さんの顔と名前が思い出せないと言った。
私の父のことである。
毎日少しずつ、記憶が、消えていくそうだ。
帰り際に、
ここは、私の家よね。私は一人なんかね?
と聞かれた。
うん。ここはおばあちゃんがずっと一人で生活してきた家。だけど、すぐ近くにお母さんも私もいるし。おばあちゃんは、一人じゃないよ。
と答えた。
記憶と存在は、ぴったりとくっついて、どこかへ行ってしまうのかもしれないけれど、私は、彼女が手放した記憶を拾い集めて、きっとずっと彼女を覚えていようと思う。
by kylynism
| 2011-02-23 23:50
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